イノベーション

とあるインターンで山奥にある施設の見学をした話。といっても怪しげな施設ではないが。そこは最寄駅から車で1時間ほどのところにあり、周囲には山しかなく、外界から隔絶されている。たどり着くのも大変なのに、そこで働いている人はどんな気持ちなんだろうと思った。施設の所長に話を聞くと、わずか2か月前に都会の職場から異動してきたらしく、しきりに寂しいと愚痴をこぼしていた。そらそうだろうな…。数人の従業員と共に、少なくとも数年はこの山奥で働くらしい。「寂しい限りですわ~」と力なく笑う所長からは悲壮感が漂っていて、聞いているこちらも同情したくなるような、でもなぜか笑えてくるような、何とも言えない気持ちになった。決して所長を嘲笑しているわけではない。でも、悲壮感も漂いすぎると可笑しみがでてくるというか。NHKの「プロフェッショナル」で松本人志が、笑いと切なさは紙一重、みたいなことを言っていて、そういう感覚に近い。所長には、大変だと思うががんばってほしい。そう思いながら、施設を後にした。

インターンの最終日、チームごとに、未来のイノベーションを起こす事業を考えるという、ありきたりで(しょーもない)課題をした。イノベーションというからには、わくわくするような夢のあるものがいいだろうということで、チームのメンバーとああだこうだ話していると、月で事業を起こして生活圏を作るというアイデアが出た。将来は地球の環境が悪化しているだろうし、何かしらの資源が眠っていそうな月で暮らせるようにするというのは、まあ陳腐といえばそうだが、おもしろそうだと純粋に思った。そのとき、月に出向が決まった所長の悲壮感溢れる顔が頭によぎった。「寂しい限りですわ~」…所長には申し訳ないが、その力ない笑いを思い返す度、つい笑ってしまう。イノベーションの影には、名も知らない所長たちの悲壮感があった。

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