マイスキーはマイスキーだった

繊細でいて、力のある音が一瞬で耳を貫く。世界的チェロ奏者ミッシャ・マイスキーの音は、一音聞いただけで彼の音だと分かるほど、独特の味がある。見た目は白髪のもじゃもじゃのおじさんで、服装は周りのオーケストラ団員が黒の正装の中、真っ青なサーカスの衣装のようなペラっとしたもの。どう見てもクラシックのイメージではない。それでも、いやそれだからこそか、マイスキーが弾き始めると、急にコンサートホールの空気が変わるような、強烈な個性を放つ音が響き渡る。

今回聴いたのは、ドヴォルザークのチェロ協奏曲。協奏曲は、ソリストと呼ばれる一人の奏者が主役で、オーケストラ全体がその伴奏となりソリストを盛り立てる。数十人のオーケストラに対してソリストは一人で渡り合うのだから、一般的なプロの奏者でも埋没してしまう。しかし、ソリストと呼ばれる人たちは――世界に数十人もいない――圧倒的な技術と個性を持って、協奏曲を弾くことを生業としている。マイスキーはその中でも個性派で、声で言うとハスキーボイスのような、渋いかすれかかったような音色が特徴だ。それでいて汚くなく、響く音を出せるのだから、他の奏者は真似しようがない。ソリストは何か特別な術を持っているに違いない。

チェロ協奏曲を生で聴くのは今回が2回目だが、チェロはやはり独特の良さがあるなと思う。大きな楽器で体全体で抱え込むように弾くため、見た目にも音にも安定感がある。人の声よりやや低い音は、チェロ特有の温かさと響きがあり、惹きつけられる人が多い。社会人になって、お金がたまったら、チェロを買って弾けるようになりたい。(割とマジ。) バイオリンの高音もきれいで優雅なんだけど、チェロの音には人の懐にダイレクトに伝わるような感触がある。チェロ奏者の人も、マイスキーまでいかなくても、我が道をいく、みたいな癖のある人が多くてそれもいいなと思う。

毎日生活していて、他の人と同じことをするのが当たり前と考えて何でもやっているけれど、時々こういう圧倒的な個性を目の当たりにすると、本当にすごいなと思うし刺激になる。ひげもじゃのおじさんに、少し元気をもらった。

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